(2007年8月波照間島)
さとうとみそがひそひそと話し出した。
さとう「ねぇ、みそ君。あいつをごらんよ。あそこの赤くてべとべとな奴さ。」
みそ「どいつだい?あ、あの卵焼きにのっかってるやつかな。」
さとう「そうそう。なんだか酸っぱいにおいがして、僕は耐えられないよ。近くによるのも憚れる。」
みそ「本当にまっかっかだね。ありゃぁ悪魔の血が流れてるんだな。きっと。」
ひそひそひそひそ。
ひそひそひそひそ。
ひそひそひそひそ。
赤くてべとべとした彼は、さとうとみその声を聞きながら、少し悲しい気持ちになった。
何を言っているかはよくわからなかったが、ぎらぎらとにらまれることが辛かった。
彼には彼の言葉があり、
彼には彼の料理に対する思いがあった。
それはさとうにもみそにも理解されないものだった。
声を上げたとしても、おそらくさとうとみそは聞き取れない。
彼は黙っていた。
ひっしで口元を押さえて声が漏れないようにした。
ひそひそひそひそ。
ひそひそひそひそ。
しお「さとうくん、みそくん。君たちは君たちが理解できないものを危険人物扱いするようだね。」
みそ「何言ってるんだ。だって、ありえないだろ。真っ赤でべとべとして。言葉も通じない。あいつが何者かなんてだれもわかりゃあしないよ。」
しお「自分が知っている調味料の世界観をみんなにおしつけるのは、ずるいんじゃないかな。彼らは彼らの幻想を持っているかを考えもしないで。」
さとう「じゃぁ、しお君はわかるって言うの?」
しお「うーん・・・わからないなー。」
さとう「なんだよ、それ。笑っちゃうよ。君もどうせ、わからないんだろ。」
しお「うーん・・・、でも彼の声が聞こえたらいいなって思ってる」
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参考: 『エピクロスの園』(アナトール・フランス)
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