2011年7月7日木曜日

誕生日

                     (2010年の夏くらい 新湊の海)
26歳になった日の朝8時半ごろ。
ケータイに知らない番号から電話がかかってきて、取った。
「まきちゃん?」
父の叔父(大叔父)の妻(大叔母)だった。
大叔父は5日前に73歳でガンで死んだばかりだった。

「お誕生日でしょう?おめでとう」
高くて明るい声がケータイの中で響いた。

私の番号は大叔父の携帯に登録されていたのだろう。
大叔母から電話がかかってくるなんて初めてだったし、
親戚といっても、会う機会の少ない間柄。
加えて、5日前に夫を亡くした大叔母の気持ちを思うと、
私はどんな風に話していいのかわからなくなった。

「お通夜ではね、まきちゃんの弔電を代表で読んでもらったのよ。ありがとう」
それは、通夜に行けないときのために念のため出しておいたものだった。
 『(略)お悔やみ申し上げます。遊びに行くと、おじさんがいつも優しく迎えてくれて、うれしかったです』
確か、そんな風に書いて送っていたな、と思い出した。

通夜は仕事でどうしてもいけなくて、それでも仕事を早引きしたけど間にあわなかったんですって、
そんな言い訳をしようかな、と思ったけど、何の意味もないと思ってやめた。

「また、遊びにきてね」
そういって、ぎこちなくて短い会話を終えると、私たちは電話を切った。

そしたら涙がぽろぽろ出てきた。
私と大叔父は同じ誕生日。
亡くなった夫の誕生日に私に「おめでとう」といってくれた大叔母の気持ちはどんなものだったのだろう。
私に大叔父を重ね合わせて、ふと、「おめでとう」と言いたくなったのだろうか、
私に何か言葉をかけたくなったのだろうか、

複雑だったろう大叔母の気持ちと
明るく響いた大叔母の声とを思うと、
やっぱり涙がこぼれた

ただ、私は、大叔母が電話してきてくれたことが、うれしかった。