2008年8月5日火曜日

図書カード

                      (2007年6月長野県上田市無言館)
                      (なんだか空がスケッチみたい~)


大学の図書館では自動貸出機で本が借りられますが、

本の裏表紙には2005年くらいまでの
 貸し出し年月日の記録が記載されています。
きっとその年くらいまではいつ貸し出されたのか、
記録していたんだと思います。


誰が借りたまではわからないけど、
古い本なんかを見ると、
何人も何人も借りているとわかる記載に、
うっとりします。
その一冊の本の歴史を私もつないでいる気がします。

ときどき誰も借りられていないみたいだと、
私が一番最初に借りることが、
ナントナクうれしく思われます。
この本の歴史は私からはじまる、
みたいなきになってしまいます。


自動貸出機にはかなりお世話になっているし、
そっちの方が便利なのもわかってる私ですが、
図書カードが教えてくれる、
一冊の本の歴史の流れに私も加わってるっていう
証拠みたいなものがほしくなってしまう。
えーと・・・、本の、歴史の、知識の「所有欲」ではなくて
どちらかというと「つながり欲」かなー。

『耳をすませば』みたいだけど、
アナログな関係がときどき恋しいです。

2008年8月4日月曜日

さとうとしお物語2

                            (2007年8月波照間島)
さとうとみそがひそひそと話し出した。
さとう「ねぇ、みそ君。あいつをごらんよ。あそこの赤くてべとべとな奴さ。」
みそ「どいつだい?あ、あの卵焼きにのっかってるやつかな。」
さとう「そうそう。なんだか酸っぱいにおいがして、僕は耐えられないよ。近くによるのも憚れる。」
みそ「本当にまっかっかだね。ありゃぁ悪魔の血が流れてるんだな。きっと。」


ひそひそひそひそ。

ひそひそひそひそ。

ひそひそひそひそ。


赤くてべとべとした彼は、さとうとみその声を聞きながら、少し悲しい気持ちになった。
何を言っているかはよくわからなかったが、ぎらぎらとにらまれることが辛かった。
彼には彼の言葉があり、
彼には彼の料理に対する思いがあった。
それはさとうにもみそにも理解されないものだった。
声を上げたとしても、おそらくさとうとみそは聞き取れない。
彼は黙っていた。
ひっしで口元を押さえて声が漏れないようにした。


ひそひそひそひそ。

ひそひそひそひそ。

しお「さとうくん、みそくん。君たちは君たちが理解できないものを危険人物扱いするようだね。」
みそ「何言ってるんだ。だって、ありえないだろ。真っ赤でべとべとして。言葉も通じない。あいつが何者かなんてだれもわかりゃあしないよ。」
しお「自分が知っている調味料の世界観をみんなにおしつけるのは、ずるいんじゃないかな。彼らは彼らの幻想を持っているかを考えもしないで。」
さとう「じゃぁ、しお君はわかるって言うの?」
しお「うーん・・・わからないなー。」
さとう「なんだよ、それ。笑っちゃうよ。君もどうせ、わからないんだろ。」
しお「うーん・・・、でも彼の声が聞こえたらいいなって思ってる」

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参考: 『エピクロスの園』(アナトール・フランス)

2008年8月1日金曜日

味わい

              (2007年8月 沖縄 多分波照間島かな~)
昔から相田みつをさんは苦手でした。
結構私の友達でも「好き」っていう子はいるし、
テレビでも特集されてたりするし、
詩を毎日読んで元気付けられてるって言う人も知ってます。

別に、それがうそだとか、
批判したいとか
そういう話ではなくて、
そう、全然なくて、
ただ、なんだか、
人生の教訓みたいなものが
ちょっと無責任な気がして苦手だったんです。
なんだか疑わしかったんです。

月刊PLAY BOYの今月号「詩は世界を裸にする」特集(9月号)を購入しました。
谷川俊太郎さんのインタビューがのっているんですが、
彼はこういいます。

「詩は、メッセージではない。
人間の意識を開放するものです。
おいしい食べ物のように
味わってほしいんです。」

確かに、目の前のケーキに、ローストビーフに、ラーメンに
「おいしいでしょ」とか
「こういう風に食べなさいよ」とか
言われたくない。

この箇所がおいしいとか、
まずいとか、
もしくは全然関係ないこととか考えながらでも、
自分の味覚で味わいたい。

名言がどれだとか、
これで感動できるとか、
これで人生がわかるとか、
そんなものはやっぱり胡散臭い気がする。

私と詩と素朴に関係を持つだけで、それでいいじゃない、って思う。

ある明確なメッセージが発せられていたとして、
いったい誰がそれを正確に受け止めることができるだろう。
理解できるんだろう。

今日読んでいる本(アナトール・フランス)によると、
わからないから、不完全だから、
だから人生なんだって。

昨日みた「秒速5センチメートル」で、
種子島を旅立つロケットを見ながら、
貴樹が遠い遠い宇宙に、求めているものに、
ずっとずっとひとり孤独で立ち向かっていくロケットを思うシーンがあったけど、

完全さや心理を求めつつ、
見つけられないことがこの世界を包んでいる気がする。