2008年6月21日土曜日

素朴なケーキ屋さん

                         (2007年6月25日長野県上田市)

「お正月の空は澄んでいて、僕はなんだか好きなんです。」
「東京のお正月は人がいないから、
車なんかも走らなくて、静かで、空気が澄んでいるんです。」

今年の1月3日。
私の住んでいる町の、
小さくて古くて素朴なケーキ屋さんのおじさんが言いました。

人がよさそうで、優しくて、ちょっと弱そうなそのおじさんは、
大きな黒縁めがねの中にある小さな目を細めて
お店の窓の外をぼんやり眺めながら、
ちょっとおセンチに言いました。




「素朴なケーキ屋さん、閉店したんだよ」

今日、美容院へ行くと、いつも担当してもらっている美容師さんに言われました。
私と美容師さんとの間で、このケーキ屋さんはよく話題にのぼっていました。
ケーキの味もおじさんもお店も素朴だから
「素朴なケーキ屋さん」と私たちは呼んでいました。


街角にある素朴なケーキ屋さんは、20年ほど前に開店したそうです。
当時、この町は静かで人も少なく、大きな大きな野原も近くにありました。
おじさんは、もっと都会の新宿よりに住んでいるけれど、
人がたくさんいるのが苦手で、
小さかったこの街にケーキ屋さんを開いたそうです。

私がお店に初めて入ったときに、おじさんに挨拶すると、
それはもううれしそうに、
そして素朴に、
いろいろなことを話してくれました。
おじさんはぼそぼそっとつぶやき、
私が笑うとうれしそうで、
私がうれしくなりました。




あのおじさんの素朴さが大好きだったから、
もうあえなくなるのは寂しいです。

おじさんみたいに人が多すぎるのが嫌だ、
と思うわけではないけれど、
ただただ街がにぎわっているだけで、

おじさんとのような、
素朴な関係がなくなってしまうのは、
寂しい。


おじさんの作った素朴なケーキがまた食べたい。

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